reviced: Jan./30th/2005
Netscape Communicator v4.x というソフトウェアがありました。これのせいで、ウェブコンテンツの記述技術は 1998 年ごろから 4 年は足踏みしました。思い出したくない悪夢です。
NCSA Mosaic (1993-) は、グラフィカルなブラウザの嚆矢です。当時の学生達が機能を追加していき、インターネットブームを牽引した歴史的なブラウザです。
イリノイ州立大学 NCSA (National Center for Supercomputing Applications) の Mosaic の開発者 Marc Andreessen氏らが卒業して SGI(Sylicon Graphics)社の Jim Clark氏と起こした Mosaic Communications 社は、商用ブラウザ Netscape Navigator を開発。このときの開発名が Mozilla でした。 Netscape Communicator は、Netscape Nvigatorと、オーサリングツールやメールハンドラを同梱した歴史的な統合環境としてリリースされていました。
Netscape Navigator は、Mosaic とは別途、スクラッチ & ビルドでソースコードを書き起こしたとされていますが、今から見ると、実装は非常に古めかしいものでした。文書のレンダリング方法や構造化ということに関する学術的/体系的理解がなかったためです。
Tim Barners Lee 氏が W3C を設立したのが 1994 年、HTML の標準仕様というものがなかった背景で、Netscape が構造化された文書に対する正しい取り扱いができなかったのも已む得ないことだと思います。やろうと思えば、XML の前身である GML (1969-), SGML (1986-) が実績を挙げていたので、可能ではあったはずですが。
1996 年の MS I.E. v3.0 は、同じ年の Netscape Navigator 3.0 と比べると一段格下の存在で、この頃は Netscape 絶対正義でした。RFC による HTML 2.0 が 1995 年、W3C による CSS 1.0 の勧告が 1996 年、HTML 4.0 は 1997 年に勧告されました。それまでは、 HTML に有力な標準がなく、各社が独自にタグを追加していました。
私が最初にインターネットに接続したのはこの頃です。ブラウザは Mosaic でした。まだ、日本語のコンテンツは非常に貧弱で、書籍の情報の方が圧倒的でした。
自分の PC を始めて購入したのもこの頃です。Toshiba の Dynabook というブランドのノート PC で、OS は Windows 95 でした。早速、bekkoame というプロバイダ (ISP) にアカウントを取得してウェブページを作り始めましたが、NC.4 と MS I.E. のクロスブラウザに悩まされました。Netscape Navigator で Yahoo! を見ると背景がグレーで、MS I.E. では白でした。NTT が goo を開始したのもこの頃だったんじゃなかったかな。
1997 年、Netscape Communicator v4.0 と MS I.E. v4.0 がリリース。MS I.E. は v4.0 で格段の進歩を遂げました。一方、N.C. v4.0 は古いコードベースを引きずったまま、W3C 勧告を無視して場当たり的な変更に留まりました。
1997 年から 1998 年にかけて、国内でもインターネットが爆発的にヒットし始めました。
ISDN が登場していましたが、まだダイヤルアップ回線が主流で、画像一つ落とすのにもストレスがありました。NTT のテレホーダイという午後 23:00 以降は使用料金が固定のサービスがあり、23:00 以降は特に酷いものでした。
w@r3z (ウェアーズ)、シリアル集CARJ、MP3 が流行、GetRight, ReGet, Iria のようなレジューム機能の付いたダウンローダが欠かせませんでした。
1998 年、W3C は XML 1.0 をリリース。この頃には、W3C 勧告準拠の MS I.E. に対して、行き当たりばったりの Netscape Navigator は大きく溝を空けられていました。この年、N.C. v4.5 がリリース、最早死に体だった Netscape 社は AOL に買収されます。
1998 年、AOL の Netscape チームは、最早手の施しようがないほどひどい N.C. のソースコードを廃棄して、オープンソースでスクラッチ & ビルドの新たなレンダリング・エンジン Gecko を開発。歴史的な名前 Mozilla を冠した Mozilla.org を設立してブラウザを公開。
翌年の 1999 年、MS I.E. v5.0 がリリースされ、 AOL 傘下の Netscape Navigator のシェアを上回り、その年の数ヶ月以内に圧倒的な差をつけました。
正式リリース前の Mozilla を Netscape 社ブランドでリリースするために設定値を変更してチューンしたものを Netscape 6.0 として見切りリリースしたのが 2000 年。クオリティを商用レベルまで高めた最初の正式版 Mozilla v1.0 がリリースされたのが 2002 年。既に MS I.E. 一強時代が三年以上続いた後のことでした。
この頃登場した Windows 98 は 95 に比べて安定性が劇的に向上し、個人ユーザの増加に拍車が掛かりました。一家に一台といわれ始めたのもこの頃です。尤も、企業ユーザや研究室などの組織で保持するマシン台数を繰り込んで、世帯数に迫ったというだけだったのですが。
ブラウザ戦争が最も激しかったのが 1998-1999 年です。このころにシェアを分けていたのが MS I.E. v4 と N.C v4 で、ウェブサイトを作るためには、W3C 準拠の MS I.E. と、独自拡張で W3C 勧告の思想に背を向けていた N.C. の両方を、クロスブラウザと称してサポートすることが必要でした。互いに全く異なる規格を実装したソフトウェアに対してできることは、一世代前の分裂前のサポートレベルで記述することと、JavaScript などによって、それぞれに別のページを見せること、両方をサポートするための回避コードを非体系的で行き当たりばったりに作りこむことでした。
N.C. v4.x の罪は、標準(相互運用性)の普及を妨げるものを、そのまま放置したことです。ウェブへの貢献という観点では、1998 年にはリリースを停止すべきでした。MS I.E. は W3C 準拠の戦略を持って順調にバージョンアップを続けてユーザに移行を促しました。N.C. v4 はそれをしませんでした。
N.C. は HTML を木構造としてレンダリングしないため、特に CSS に対しては決定的に駄目なブラウザです。これをサポートするために、ウェブコンテンツの表現力は格段に落ち、1998 年ごろから停滞を強いられました。W3C の勧告が標準として広く認知され、Opera, Mozilla, Safari など、I.E. 以外の W3C 準拠ブラウザの選択肢が複数ある今、N.C. を明示的にサポート・ターゲットのブラウザとしてあげる必要はありません。N.C. のシェアは 2002 年では 1.4% 程ありましたが、2004 年では最下位の Safari 0.5% の更に下のシェアで圏外です。1997 年のバージョン 4 のブラウザに拘泥するのは時代錯誤だといえます。
2002/04/29付け | 2003/06/28付け | 2004/05/28付け | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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この文章の中で、MS I.E. が最高だと言っているわけではないことをご理解ください。
本稿は、N.C. v4.x をサポートしません。企業担当者にも、N.C. v4 の呪縛が時代錯誤の頑迷固陋であることを認識してもらいたいと思います。