昭和27年初出、30年に没した安吾晩年の作品に分類できます。自己模倣の罠にはまっている恨みもありますが、美しい小品です。
この短編のキーワードは「イノチ」。「イノチ」とは呪うほど強く望むこと、苦悶する衒気が描かれています。人は、ギリギリの、のっぴきならない場に居続ける事に疲れて、ややもすると悟達や諦念、成熟に安堵する。呪詛、苦悶、己の欲望から目を背けてしまう。それは自己韜晦であり、己の魂の簒奪です。
安吾は「欲望」、「堕落」を称揚するかのようですが、それは「人間」を描く事であり、人品の卑しさを嫌悪し、魂の純潔を尊ぶことです。そしてあらゆる形の愛に収斂していくものです。
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