科学革命の構造>> TOP | 周辺案内 | 著者略歴 | 構成 | Paradigm 理論 | 終章 || <<PREV | NEXT>> | |
§3. 本書の概略Normal Science and Paradigm本書では、まず normal science (通常科学) という概念を導入し、専門教育で与えられた既成概念の鋳型の中に自然を無理やり詰め込む真摯で弛まない努力 ― 科学の cumulative development を追う。ここで、通常の研究活動が如何に不自由で型にはまったものであるかが描かれ、その結果如何に科学と云う事業が成功しているかが描かれる。この「既成の概念」を拡張し、 paradigm の概念を導入する。 paradigm の作用を吟味した後で、 normal science の遭遇する crisis が分類され、豊富な歴史的叙述のもと吟味される。 Anomaly and Crises
normal science がその paradigm で説明できない anomaly (異常) を認識すると、研究活動はもはや累積的ではありえない。 paradigm の機能は弱くなり、 rule のぼやけた混乱状態に陥る。この危機的状態から、既存の paradigm が anomaly を解決できない事が明らかになると、取って代わるような新たな paradigm が現れることがある。 The Actions of Scientific RevolutionsIX. The Nature and Necessity of Scientific Revolutionsから scientific revolution の構造が述べられる。Section Xで scientific revolution が世界観を不可逆的に変革する様相を吟味し、本書の主張は終わる。 残りの章では本書の議論の妥当性の吟味に当てられている。いわば、section Xまでの豊富な歴史的記述に対する、理論的検証である。まず、 scientific revolution が、その後の normal science に隠蔽される様相を吟味する。 revolution の機能は normal science によって隠蔽される宿命にあることが明らかにされ、隠蔽された revolution の機能を論じる。 The Nature of Scientific Revolutions as Paradigm Shitf
次に、ここまで棚上げされていた paradigm shift の手順を吟味する。ここで彼の云う incommensurability (共約不可能性) は paradigm shift の根幹を成す概念である。革命の決着は将来の科学を行なうための最も適切な、科学者集団の中の闘争による選択であり、これは暗闇への跳躍でもある事が示される。 最後の章での問題は、科学に特有な progress という現象を吟味する。さらに云えばこの問題は次のように言換えられる。 Concrusions次の2点が本書の主な結論である。
これは、実証主義、批判的合理主義を批判するものであり、
などを背景としている。 目次と各章の概要本書は細かく章立てされている。目次を見るだけでも本書のいわんとするところをある程度汲み取れると思う。ここでは実際本書に目を通すときの一助となる事を願い、目次に習って各章の内容を示唆しておく。 Preface
I. Introduction: A Role for History
II. The Route to Normal Science
III. The Nature of Normal Science
IV. Normal Science as Puzzle-solving
V. The Priority of Paradigm
VI. Anomaly and the Emergence of Scientific Discoveries
VII. Crisis and the Emergence of Scientific Theories
VIII. The Response to Crisis
IX. The Nature and Necessity of Scientific Revolutions
X. Revolutions as Changes of World View
XI. The Invisibility of Revolutions
XII. The Resolutions of Revolutionsこの章では、パラダイムが既存のものと取って代わる手順を示す。その際に、蓋然性 (probabilisty) の実証 (verifycation) に基く実証主義と、反証 (falsification) に基く批判的合理主義に付いて検証し、その有効射程を測る。 そして、革命前後のパラダイム間の共役(翻訳)が不可能であることに注意して、危機の役割と、それに際した科学者集団の心理を分析する。
XIII. Progress through Revolutions
Postscript - 1969初版に対する批判への応答。日本語版 (1970) への増補であり、後に原書第二版 (1970) に収録。 とくに、 paradigm 概念の再検証。科学を主観的で非合理的な活動としているとする非難への応答。最後に、本書の主な論点が科学以外の分野に正当に応用できる範囲を吟味して終わる。 1. Paradigms and Community StructureParadigm の概念を科学者集団から切り離す試み。結果として、パラダイムと云う言葉は放棄して、 'disciplinary matrix' と言い換え、この中の特に、見本となる過去の業績については 'exemplar' と云う呼び方を提唱。
2. Paradigms as the Constellation of Group CommitmentsParadigm - 特例の領域の専門化集団が共通して認めている、一連の秩序或る要素群。 'discilinary matrix' と言換え。
3. Paradigms as Shared ExamplesParadigm - normal science の未解決のパズルを解く基礎として、自明なルールに取って代わりうる、モデルや例題として使われる具体的な puzzle solving を示す物。exemplars と云う呼び方を提唱。 例えば、ニュートンの運動の第二法則 F = ma と云う記号的一般化に付いて考えてみる。これを記号的一般化として利用できる為には、具体例が必要である。と云うのも、例えば自由落下の場合は mg = m s''、単振り子については mg sin(θ) = -ml θ'' のように変形され、 F = ma と型の類似性を見つけ出す事が困難になるからである。このとき要求される作業は、複数の特徴的問題の間で類似点を見つけることで、記号を関連付けて、自然と結びつけることである。この結果、 F = ma と云うスケッチが、ゲンシュタルトの信号を発して、専門集団に於いて共有されるゲンシュタルトでものを見ることができるようになる。 別の例を挙げれば、霧箱の蒸気や軌跡を見る事で電子を見た事にし、電流計の針の動きを見る事で電流を見たかのよ知覚する事である。 言葉は、それが機能する具体例と共に与えられて初めて学ばれるものであり、自然と言葉とは一緒に学ばれる。これは即ち、ルールを排斥し、暗黙の知識 (tacit knowledge) に頼ることを意味する。 4. Tacit Knowledge and Intuition知識という物が、共有される例題の中に暗黙のうちにあらわされている、共有する見本例に含まれている事を示し、主観的や直感的と云う非合理的なものでは無いことを示す。暗黙の知識は、成功したグループに於いて共有される直感として成り立つもので、個人的な直感ではないことを強調する。 従って、或る事物に対して、或る専門化集団の構成員同士はほとんど同じように類似性を見つけ、何に関して類似であるかについても合意するが、異なる集団の成員の間では、これらの点に差が生じる。 この、特定の専門家集団内での合意は、通常科学において必要不可欠なものであり、過去に成功した業績の間から類似性を抽出する事で成し遂げられる。この合意されるべき類似性の認知は、ルールや基準を展開する土台であって、無意識的な恣意性に基く。但し、無意識的であるが故に、個人の任意性は働けないし、恣意的な合意は、グループ特有のテストに淘汰され、結果的には成功裏に選択されたものである。 ここで強調される事は、知覚 (perception) が、論理や法則による解釈 (intepretation) に先立つ無意識的なものであり、個人の任意性に基くものではない事、この専門集団で合意された知覚を得る為に exmplars が不可欠であるという事である。 5. Exemplars, Incommensurability, and Revolutions議論を二つの共役不可能な理論の選択に当てはめる。同一の基準でははかれないような見解を持つ人々は異なった言語集団の成員と考えられ、彼らの間のコミュニケーションの問題を翻訳の問題として分析する。 異なる exemplars の集合を採用する集団間では、同一の刺激であっても、異なって解釈されるし、共通の記号的一般化(例えば、Schrödinge Eq. H|n> = E|n>)の発するゲシュタルトも変わってくる。 従って、これらの集団間では共役できないために、各々の理論の優越は論争によってではなく、説得によって決定される。ここで、説得に使われるのは、 disciplinary matrix の中で最も緩い要素である価値である。精密さ、単純性、有効性などの価値観に応じて、或る場合にはありふれた変則性として通常科学の枠内で処理されようとし、或る場合には単に無視される。そして、或る場合には、革命の前兆となる危機を醸成する変則性として深刻に受け止められて、ルールの意味や応用などの前提に関する論争が始まり、証明の可能性への準備としての説得が継続される。 従って、相互に共役できない理論間の選択は、一連の特定の価値が専門家集団に共有されるやりかたに基く。 このようにして、革命は、 exemplars のセットを変えることに現れ、言葉は継承されても、その属する類似項が変わる。例えば、金属を化合物から元素にカテゴライズし直すことで、燃焼、酸化、科学結合理論に関する新理論の出現が準備された。 これらの異なった exemplars を採用する集団間の議論は、異なった言語間の翻訳の問題に等しく、理論間の転向は native speaker になる事を意味し、説得される事は、翻訳する事に等しい。 6. Revolutions and Relativism初版に対する特にsection XIIIで展開された科学の相対主義的諸相への批判に対する応答。テクスト論的相対主義の科学への当てはめ。 puzzle solving 能力に沿う高い価値。 異なった理論の主張者は、異なった言語文化集団に属していると考える事は、直接文化相対主義的な結論を与える。但し、自然科学の場合には、成功したパズル解きの経験が、単純な相対主義には至らしめない。科学の発展は非可逆的なものであって、後に出た科学理論は、前のものよりも問題を解く能力において、より有能なものである。ただ、その選択の際に、このことが決定的な根拠を与えないだけである。例えば、コペルニクスの天動説は、必ずしもそれ以前の理論より問題を解く能力において「有能」なわけではなかった。 ニュートン力学はアリストテレス力学に比べて、問題を解く能力は高く、アインシュタインの相対論がニュートン力学よりも有能であることは疑いがないが、「自然の真理をより良く表している」とするような「真の」適合物との対応と云う観念に於いては、実体論的発展の首尾一貫した定向的方向は見出し難い。
7. The Nature of Science叙述的態度と規範的態度との間の錯綜。本書の主要な論点の、他の分野に対する応用。 | |
科学革命の構造>> TOP | 周辺案内 | 著者略歴 | 構成 | Paradigm 理論 | 終章 || <<PREV | NEXT>> |